電熱の学習帳
電気加熱
電気エネルギーを熱として利用し、対象物の温度を上昇させることを電気加熱と呼ぶ。
抵抗加熱
電気加熱のうち最も広く使われているのが抵抗加熱である。抵抗加熱は抵抗体に電流を流すことにより生じるジュール熱を利用する。このとき、抵抗体が達する温度はジュール熱により生じる熱と抵抗体から拡散する熱が等しくなる温度である。この状態を熱平衡という。
直接抵抗加熱
直接抵抗加熱は被加熱物への通電により発生するジュール熱で加熱を行う。
間接抵抗加熱
間接抵抗加熱は、熱源となる抵抗体から伝熱によって被加熱物に熱を伝えるので、被加熱物の材質にかかわらず加熱することができる。
ニクロムや炭化けい素などで作られたヒータに通電し、発生するジュール熱を利用して被加熱物を間接的に加熱する方式は間接抵抗加熱と呼ばれ、工業分野の電気加熱におてい最も多く利用されている加熱法である。
この方式の加熱炉では、炉内のヒータに供給する電力を調整して、炉内温度を制御している。この温度制御には、サイリスタを用いた位相制御が多く用いられている。位相制御では高調波が発生するので、このための対策が必要であるが、制御応答は速い。
ヒータで発生したジュール熱は、放射、対流、伝導の組合せによって被加熱物に伝えられ、被加熱物が加熱される。放射ではヒータやヒータによって加熱された炉壁から発生する電磁波(主に赤外放射)によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。対流ではヒータによって加熱された炉内の空気の移動によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。対流による被加熱物への熱流束(単位時間に単位面積を横切る熱量)は被加熱物近傍の炉内空気温度と被加熱物の表面温度との温度差に比例する。また、炉内で被加熱物を保持する物体と被加熱物とが接触する部位からは伝導によってエネルギーが被加熱物に伝えられる。
アーク加熱
アーク加熱は、アーク放電によって生じる熱を利用するもので、直接加熱方式と間接加熱方式がある。
赤外加熱
赤外加熱において、遠赤外ヒータの最大放射束の波長は、赤外電球の最大放射束の波長より長い。
誘導加熱
誘導加熱は、導電性の被加熱物を交番磁界中に置くことで生じる渦電流損(ジュール熱)によって被加熱物自体が発熱し、加熱される方式である。金属の溶解のほか、金属表面の焼入れなどに用いられている。
渦電流損として発生する熱量は、交番磁束の大きさの2乗に比例する。このほか、交番磁束の周波数、被加熱物の透磁率及び導電率にも依存する。また、印加する交番磁界の周波数を高くとすると、発熱は被加熱物の表面近傍に集中するようになる。この現象は表皮効果によるものである。また、その指標として浸透深さがある。浸透深さは、透磁率と導電率の積の平方根に反比例する。
誘電加熱
一般に、被加熱物が絶縁体の場合、直流電界を印加しても電流が流れず、加熱されない。しかし、被加熱物中の電子、イオン、電気双極子のような荷電体においては、印加される直流電界によって誘電分極を生じる。電界が交番電界の場合には、電界の往復的な変化に応じて、誘電分極も往復的に連続して発生する。
絶縁体の誘電率\(\epsilon\)は複素数を用いて、一般に次式で表される。
\(\epsilon=\epsilon’-j\epsilon”\) …①
交番周波数を上げていくと、交番電界の時間変化に誘電分極が追いつかなくなり、遅れが生じ始める。この遅れによって電力損失が発生し、被加熱物が加熱される。①式において、\(\epsilon”\)はこの遅れを表している。発生する熱量は\(\epsilon”\)が一定と見なせる場合には交番周波数に比例する。また、印加する交番電界強度の2乗に比例する。
マイクロ波を利用する電子レンジは誘電加熱の代表的な例の一つである。電子レンジでは、被加熱物を構成する荷電帯のうち、電気双極子による発熱によって加熱される。
誘電加熱は、被加熱物である誘電体を交番電界中に置くことによって誘電体自身が発熱する現象を利用した加熱法である。この発熱は誘電体損と呼ばれている。誘電体に電界が印加されると、誘電体内に誘電分極を生じる。交番電界の場合には、電界の交番に伴って、誘電分極の方向も変化する。交番電界の周波数を上げていくと、交番電界の時間変化に誘電分極が追いつかなくなり、遅れが生じ始める。この遅れによって誘電体損が生じ、その熱によって誘電体自身の温度が上昇する。
誘電体の電気的等価回路は抵抗\(R\)と静電容量\(C\)の並列回路で表される。\(R\)及び\(C\)を流れる電流をそれぞれ\(I_R\)、\(I_C\)とすると\(\tan\delta=\frac{I_R}{I_C}\)と表され、\(\tan\delta\)は誘電正接と呼ばれる。また、誘電体の比誘電率を\(\epsilon_r\tan\delta\)は誘電体の損失係数と呼ばれ、誘電加熱の容易さを判断する目安となる。
誘電損失係数の大きさは印加する交番電界の周波数に大きく依存する。実際の誘電加熱では、放送などの無線業務の障害となるのを避けるため、使用可能な周波数帯がISM周波数帯として定められている。この周波数帯においては、誘電体損を生じる誘電分極は誘電体を構成する荷電体のうち電気双極子によるものである。
また、一般に、被加熱物である誘電体は温度上昇によってインピーダンスが変化するので、誘電加熱装置から被加熱物に電力を効率よく供給するために、高周波発振回路と被加熱物の間に整合回路が挿入されている。
- 電験2種過去問【2022年機械 問8】(誘電加熱に関する記述)
- 電験2種過去問【2020年機械 問7】(誘導加熱に関する記述)
- 電験2種過去問【2017年機械 問4】(誘電加熱に関する記述)
- 電験2種過去問【2019年機械 問7】(各種電気加熱方式)
熱伝熱
熱伝導とは物質内で熱のみが移動することをいう。次の3とおりの、熱伝導、対流熱伝達、放射伝熱の形態がある。
熱系の量とオームの法則
電気系と熱系の対応表
電気系の量 | 熱系の量 |
電圧 V[V] | 温度差θ[K] |
電気量 Q[C] | 熱量 Q[J] |
電流 I[A] | 熱流Φ[W] |
導電率 σ[S/m] | 熱伝導率λ [W/(m·K)] |
電気抵抗 R[Ω] | 熱抵抗RT [K/W] |
静電容量 C[F] | 熱容量 C [J/K] |
電験3種過去問【2020年機械 問13】(熱系の量に関する知識)
熱回路のオームの法則
熱伝導体の、熱抵抗 R [K/W]は、断面積 S [m2]、長さ l [m]の熱伝導率を λ [W/(m・K)]とすると
\(\displaystyle R=\frac{1}{\lambda}・\frac{l}{S}\)[K/W]
熱の移動による熱流 Φ [W]は、温度差を θ [K]とすると、
\(\displaystyle \phi=\frac{\theta}{R}\)[W]
対流伝熱
対流熱伝達とは固体と流体の間の熱の移動や、流体の移動などの物理現象をともなった熱の移動を表す。
放射伝熱
熱源から電磁波としてエネルギーが放出され対象物に吸収されて熱が移動する。熱源の表面から放出されるエネルギーは、物質の温度の4乗にほぼ比例する。
熱放射は、熱媒体を必要とせず、真空中でも熱を伝達する。高温側で温度T2[K]の面S2[m2]と、低温側で温度T1[K]の面S1[m2]が向かい合う場合の熱流Φ[W]は、\(\displaystyle S_{2}F_{21}\sigma(T_2^4-T_1^4)\)で与えられる。
ただし、F21は、形態係数である。また、σ[W/(m2・K4)]は、ステファン・ボルツマン定数である。
過去問題:
電験3種過去問【2021年機械 問17】(伝熱と熱流計算)
シュテファン・ボルツマンの法則
この法則によると、熱輻射により黒体から放出されるエネルギーは温度の4乗に比例する。光束発散度をM、熱力学温度を T とすれば
\(\displaystyle M=\sigma T^{4}\)
放射発散度と温度の比例係数 σ はシュテファン・ボルツマン定数という。
現実の物体は黒体であるとは限らないので、 0 ≤ ε ≤ 1 の係数を用いて
\(\displaystyle M=\epsilon \sigma T^{4}\)
のように補正される。 係数 εは放射率と呼ばれる。厳密には放射率は波長に依存するため、この関係は近似的なものである。
放出されるエネルギーを輝度Lで表せば
\(\displaystyle L={\frac {1}{\pi }}M={\frac {\sigma }{\pi }}T^{4}\) [cd/m2]
となる。
過去問題:
電験2種過去問【2021年機械 問7】(抵抗加熱と伝熱)
ヒートポンプ
外部からの機械的な仕事を受け、低温熱源より熱量を吸収し、高温熱源へ熱を放出する機関
成績係数(COP)
\(\displaystyle COP=\frac{出力}{入力}>1\)
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