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電験2種過去問【2021年機械 問5】

2022年4月24日

【電気化学】食塩電解に関する知識《空所問題》

 次の文章は、食塩電解に関する記述である。文中の\fbox{空所欄}に当てはまる最も適切なものを解答群の中から選べ。
 食塩電解は食塩水を電解して塩素、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水素を得る工業電解プロセスであり、全反応式は以下で表される。
 \displaystyle 2NaCl+2H_2O→Cl_2+H_2+ \fbox{(1)}
 現在、国内で行われているイオン交換膜法では\displaystyle Na^+の選択透過性のある密隔膜(イオン交換膜)を隔膜として利用し、アノードには寸法安定性電極、カソードにはニッケル系の電極が用いられ、理論分解電圧は2.3V、実際のセル電圧は3.0~5.0Vである。
 電解槽のセル電圧を下げるためには、電極反応や電解槽の内部抵抗などが原因のセル電圧の上昇を小さくしなければならない。食塩電解の電極反応はターフェルの式に従う。したがって、運転時の電極電位と平衡電位の差である過電圧は電流が大きくなると、\fbox{(2)}に比例して大きくなる。内部抵抗は電解質の抵抗によるものが支配的である。この電解質の抵抗は電解液である食塩水や水酸化ナトリウムやイオン交換膜などの電解質のイオン抵抗である。内部抵抗を小さく、すなわちイオン電導度を高くするためには電解質の濃度を高く維持する必要がある。このとき、食塩水や水酸化ナトリウムなどの強電解質の濃度あたりの伝導率であるモル伝導率は、イオン間の相互作用により濃度が高くなると\fbox{(3)}
 電解槽に加える電力は電流と電圧の積で表すことができ、電気化学反応も化学熱力学的な項、ファラデーの法則に基づく電流項、ネルンスト式で表される電圧項、それぞれ理論的な値が存在するので、電解槽のエネルギー変換効率は化学熱力学に基づく理論効率、電流効率と電圧効率の積で表される。
 今、電極面積\displaystyle 2m^2の食塩電解セルを2時間運転した。このときのセル電圧が3.3V、電流密度が\displaystyle 6kA/m^2、電流効率が96%で一定であった。この間の電解セルの電圧効率は\fbox{(4)}%、標準状態換算での塩素の生産量は\fbox{(5)}kLである。なお、ファラデー定数は26.80A・h/mol、気体の標準状態の体積を22.4L/molとする。 

[問5の解答群]
(イ) \displaystyle \text{変わらない}  (ロ) \displaystyle \text{2NaOH}   (ハ) \displaystyle \text{2NaO}

(ニ) \displaystyle \text{小さくなる}  (ホ) \displaystyle \text{NaOH}   (ヘ) \displaystyle \text{大きくなる}

(ト) \displaystyle \text{19.3}    (チ) \displaystyle \text{69.7}    (リ) \displaystyle \text{66.9}

(ヌ) \displaystyle \text{電流の対数}  (ル) \displaystyle \text{電流の指数}  (ヲ) \displaystyle \text{72.6}

(ワ) \displaystyle \text{10.0}    (カ) \displaystyle \text{電流}     (ヨ) \displaystyle \text{9.63}

解答と解説はこちら

解答

(1):(ロ)
(2):(ヌ)
(3):(ニ)
(4):(チ)
(5):(ヨ)

解説

 食塩電解は食塩水を電解して塩素、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水素を得る工業電解プロセスであり、全反応式は以下で表される。
 \displaystyle 2NaCl+2H_2O→Cl_2+H_2+ \displaystyle 2NaOH
 現在、国内で行われているイオン交換膜法では\displaystyle Na^+の選択透過性のある密隔膜(イオン交換膜)を隔膜として利用し、アノードには寸法安定性電極、カソードにはニッケル系の電極が用いられ、理論分解電圧は2.3V、実際のセル電圧は3.0~5.0Vである。
 電解槽のセル電圧を下げるためには、電極反応や電解槽の内部抵抗などが原因のセル電圧の上昇を小さくしなければならない。食塩電解の電極反応はターフェルの式に従う。したがって、運転時の電極電位と平衡電位の差である過電圧は電流が大きくなると、\fbox{電流の対数}に比例して大きくなる。内部抵抗は電解質の抵抗によるものが支配的である。この電解質の抵抗は電解液である食塩水や水酸化ナトリウムやイオン交換膜などの電解質のイオン抵抗である。内部抵抗を小さく、すなわちイオン電導度を高くするためには電解質の濃度を高く維持する必要がある。このとき、食塩水や水酸化ナトリウムなどの強電解質の濃度あたりの伝導率であるモル伝導率は、イオン間の相互作用により濃度が高くなると\fbox{小さくなる}
 電解槽に加える電力は電流と電圧の積で表すことができ、電気化学反応も化学熱力学的な項、ファラデーの法則に基づく電流項、ネルンスト式で表される電圧項、それぞれ理論的な値が存在するので、電解槽のエネルギー変換効率は化学熱力学に基づく理論効率、電流効率と電圧効率の積で表される。
 今、電極面積\displaystyle 2m^2の食塩電解セルを2時間運転した。このときのセル電圧が3.3V、電流密度が\displaystyle 6kA/m^2、電流効率が96%で一定であった。この間の電解セルの電圧効率は\fbox{69.7}%、標準状態換算での塩素の生産量は\fbox{9.63}kLである。なお、ファラデー定数は26.80A・h/mol、気体の標準状態の体積を22.4L/molとする。 

電解セルの電圧効率

\displaystyle \text{電圧効率}=\frac{\text{理論電圧}}{\text{実際の電圧}}

であるので、

\displaystyle \text{電圧効率}=\frac{\text{2.3V}}{\text{3.3V}}=0.697(69.7%)

塩素の生産量(体積)

題意で与えられた全反応式は 

\displaystyle 2NaCl+2H_2O→Cl_2+H_2+2NaOH 

である。これは\displaystyle 2e^{-}の電子により酸化還元反応がなされることを示す。

ファラデー定数は1モル当量の電子の電荷量を示すので、簡単のため\displaystyle e^{-}の電子による反応式を考える。

\displaystyle NaCl+H_2O→\frac{1}{2}Cl_2+\frac{1}{2}H_2+NaOH 

このとき、陽極・陰極で起こる反応はそれぞれ

 陽極:\displaystyle Cl^{-}→\frac{1}{2}Cl_2+e^{-} 

 陰極:\displaystyle H^{+}+e^{-}+OH^{-}→\frac{1}{2}H_2+OH^{-} 

              \displaystyle →OH^{-}+Na^{+}→NaOH

陽極で起こる酸化反応により塩素が発生する。いま電極面積\displaystyle 2m^2で電流密度が\displaystyle 6kA/m^2であったので、陽極に流れる電流は

\displaystyle 2\times6\times10^3=12\times10^3\text{[A]}

2時間運転すると、

\displaystyle 12\times10^3\times2=24\times10^3\text{[A・h]}

の電荷量が流れる。

ファラデー定数は26.80A・h/molで与えられているので、電流効率が96%で移動した電子の物質量は

\displaystyle \frac{24\times10^3\text{[A・h]}}{26.80\text{[A・h/mol]}}\times0.96=859.7\text{[mol]}

陽極には下反応式のように、1[mol]の電子\displaystyle e^{-}が移動したとき\displaystyle \frac{1}{2}[mol]の\displaystyle Cl^{-}分子が発生する。

\displaystyle Cl^{-}→\frac{1}{2}Cl_2+e^{-}

つまり、859.7[mol]の電子\displaystyle e^{-}が移動したとき

\displaystyle 859.7\times \frac{1}{2}=429.9[mol]の\displaystyle Cl^{-}分子が発生する。

気体の標準状態の体積は22.4L/molであるので、

\displaystyle 429.9\text{[mol]}\times22.4\text{[L/mol]}=9630[L] 

\displaystyle Cl^{-}が発生する。