変圧器の保全・診断方法
変圧器の保全診断方法について。その他の施設管理については電気施設管理の学習帳にあります。
油入変圧器の絶縁劣化診断
(1) 変圧器の予防保全は,運転の維持と事故の防止を目的としている。
(2) 油入変圧器の絶縁油の油中ガス分析は内部異常診断に用いられる。
(3) 部分放電は,絶縁破壊が生じる前ぶれである場合が多いため,異常診断技術として,部分放電測定が用いられることがある。
(4) 変圧器巻線の絶縁抵抗測定と誘電正接測定は,巻線の経年劣化を把握することを主な目的として実施される。
(5) ガスケットの経年劣化に伴う漏油の検出には,目視点検に加え,油面計が活用される。
油入変圧器の絶縁劣化の原因
- 絶縁油には一般に鉱油が使用されているが、絶縁油が吸湿したり、空気に長時間さらされると絶縁性能が低下する。この場合の絶縁油の絶縁特性を確認する診断項目と絶縁性能低下との関係は以下。
- 絶縁破壊電圧
酸化や水分量の増加、油中微粒子などにより絶縁油が劣化すると絶縁破壊電圧が低下する。 - 全酸価
絶縁油の酸化劣化により有機酸が生成され全酸価が増加すると、絶縁性能が低下する。 - 体積抵抗率
絶縁油が劣化するとイオン性の物質が増加し体積抵抗率が減少し、絶縁性能が低下する。 - 誘電正接(tanδでも正解)
絶縁油が劣化するとイオン性の物質を生成するため誘電体損が増加し、絶縁性能が低下する。 - 水分量(油中水分量でも正解)
絶縁油中の水分量が増加すると絶縁性能が低下する。
- 絶縁破壊電圧
絶縁油の劣化
絶縁油に空気中の水分や酸素が溶け込むと、絶縁破壊電圧の低下、全酸価(酸価、酸価度)の上昇などにより劣化が進行する。
- 対応する絶縁劣化診断試験
- 絶縁破壊電圧試験
- 全酸価試験
絶縁紙の劣化
油入変圧器の長期間の運転による発熱により絶縁紙の平均重合度が低下すると引張り強さが低下し劣化が進行する。
- 対応する絶縁劣化診断試験
- 油中ガス分析試験
内部絶縁材料(絶縁油、絶縁紙、プレスボード等)の劣化
内部異常時の局部的な発熱や、長期間の運転による発熱で、絶縁材料が熱分解し劣化が進行する。
- 対応する絶縁劣化診断試験
- 油中フルフラール分析試験
各種絶縁劣化診断試験
絶縁破壊電圧試験
- 劣化診断の原理
- 商用周波数における絶縁油の絶縁破壊電圧を測定し、劣化度を推定する。
- 劣化診断試験の実施方法例
- 試料を試験容器に満たし、相対する球電極間に商用周波数の試験電圧を印加し、一定の割合で上昇させ絶縁破壊電圧を測定する。
全酸価試験
- 劣化診断の原理
- 絶縁油に含まれる全酸価を測定し劣化度を推定する。全酸価とは、絶縁油 1 g 中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムの mg 数をいう。
- 劣化診断試験の実施方法例
- 試料をトルエン・エタノールの混合溶剤に溶かし、アルカリブルー 6B を指示薬として水酸化カリウムの標準エタノール溶液で滴定する。
油中ガス分析試験
- 劣化診断の原理
- 内部絶縁材料が熱分解すると、絶縁材料や異常の種類によって特有のガスが発生し、一部は油中に溶解する。この発生ガスを分析し、内部異常や劣化度を推定する。
- 劣化診断試験の実施方法例
- 試料に溶け込んだ発生ガスをガスクロマトグラフにより分析する。
油中フルフラール分析試験
- 劣化診断の原理
- 絶縁紙のセルロース分子が劣化分解すると、フルフラールなどの生成物が発生する。フルフラールは、沸点が約162℃の液体であるため、常温で絶縁油に溶解する。絶縁紙の平均重合度残存率及び引張り強さと一定の関係があるフルフラール量を測定し、劣化度を推定する。
- 劣化診断試験の実施方法例
- 試料に溶け込んだフルフラールを液体クロマトグラフにより分析する。
- 自家用需要家が絶縁油の保守、点検のために行う試験には、絶縁耐力試験及び酸価度試験が一般に実施されている。
- 絶縁油、特に変圧器油は、使用中に次第に劣化して酸価が上がり、抵抗率や耐圧が下がるなどの諸性能が低下し、ついには泥状のスラッジができるようになる。
- 変圧器油劣化の主原因は、油と接触する空気が油中に溶け込み、その中の酸素による酸化であって、この酸化反応は変圧器の運転による温度の上昇によって特に促進される。そのほか、金属、絶縁ワニス、光線なども酸化を促進し、劣化生成物のうちにも反応を促進するものが数多くある。
- 絶縁油は、油入変圧器や油入コンデンサなどの電気機器に広く使用されており、その主な役割は機器の絶縁と冷却である。油入機器の内部で異常過熱や絶縁劣化が生じると、絶縁油から発生した分解ガスや絶縁物の劣化生成物が絶縁油に溶け込み、絶縁油の化学的特性に変化が生じてくる。絶縁油の保守管理は、油入機器の絶縁状態を把握するとともに機器の性能を長く維持するために重要なことである。
- 油入変圧器を運転すると温度が変化し外気との間で呼吸作用が行われる。その際、ブリーザ不良、パッキング劣化、シール部の締付不良、外装タンクの腐食などによる気密不良があると、絶縁油に空気中の酸素や水分が混入する。絶縁油は油中に酸素や水分が存在すると、変圧器内部の鉄や銅の裸金属に接触している状態で運転中の温度上昇により、酸化反応が促進され酸性有機物質の総量(酸価)が増大する。酸価が増大すると絶縁油と金属やコイル絶縁物が化合しスラッジ(絶縁油の劣化によって生じる泥状物質)が生成される。これがコイル絶縁物、鉄心、放熱面に付着すると放熱機能が低下し、温度上昇が著しくなり絶縁物の熱劣化が加速される。
- 絶縁劣化した状態で油入変圧器の運転を続けいていると、過電圧などによって部分放電が発生し、外部からのサージや外部短絡時の電気的又は機械的ストレスで絶縁破壊に至るおそれがある。また、絶縁油自体も劣化生成物の溶解によって吸水性を増し、絶縁抵抗の低下やtanδの増加などの絶縁特性が低下する。
- 絶縁油は定期的に試験を行って劣化状況を確認する必要があり、試験項目としては、絶縁破壊電圧試験、酸価試験、水分試験などがある。
油中ガス分析
変圧器の異常診断手法として油中ガス分析が用いられている。油中ガス分析は可燃性ガスの量や組成比などから内部異常の有無・様相を診断する手法である。油中ガス分析による異常診断方法及び最終的な処置を決定するための総合診断について以下に述べる。
(1)過熱時に発生する特徴的なガスと、その発生ガスの組成比などから推定できる過熱の様相。
過熱時に発生する特徴的なガスとしてエチレン\((C_2H_4)\)とエタン\((C_2H_6)\)が挙げられる。
過熱レベル(高温過熱・低温過熱)により発生ガスの成分が変化し、高温過熱ではエチレンが、低温過熱ではエタンが多く発生する。また、組成比などから過熱部位(巻線部・金属部)の推定を行うことができる。
過熱時発生するガスに、メタン\((CH_4)\)、一酸化炭素\((CO)\)、二酸化炭素\((CO_2)\)などもある。
(2)放電を伴う内部異常時に発生する特徴的なガス、内部異常時以外にもこのガスが発生する原因。
放電時に発生する特徴的なガスとしてアセチレン\((C_2H_2)\)、水素\((H_2)\)が挙げられる。アセチレンは絶縁油から発生する分解ガスのうち、アーク放電など特に高温時に発生するものである。
水素は経年劣化でも発生する一方、アセチレンは微量であっても検出された場合は内部異常の可能性が高い。
アセチレンはLTC(負荷時タップ切替器)動作時に切換開閉器室内の絶縁油が分解することでも発生することから、LTC内の絶縁油が変圧器本体タンクへ混入すると内部異常と誤診断されるおそれがあるため、注意が必要である。
(3)油中ガス分析で内部異常と診断された場合、総合診断を行うために実施すべき試験・点検・調査事項並びに、最終的に決定する処置内容。
電気的試験(巻線抵抗、部分放電測定など)、外部一般点検(放圧管の動作、タンクの変形など)、運転履歴・改修履歴の調査(過負荷運転など)などの項目を総合して、変圧器の運転継続可否、内部点検・改修の要否などの最終的な処置を決定する。
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