パイロットに学ぶ!仕事に使えるスキル「言語技術」
パイロットが「シミュレーター」等を通して、様々な飛行状況を操縦訓練していることはよく知られています。しかし、コックピットでのコミュニケーションに関しても日々訓練を重ねていることはあまり知られていないかもしれません。
コックピットで必要なコミュニケーションスキルは「短時間で分かりやすく話す」ことです。これってどんな仕事にも大切なスキルだと思います。「会議で議論する」「部下に指示を出す」「上司からの指示を受ける」などあらゆる場面に応用できます。
コックピットでのコミュニケーションスキルを改善する技術は、つくば言語技術教育研究所の提唱する「言語技術教育」に基づいています。この「言語技術」について実際にパイロットが受けている訓練を取り上げながら、仕事に役立つスキルを紹介します。
言語技術とは
欧米諸国の人たちは国語で、Language Arts(ランゲージアーツ)を学びます。ランゲージアーツとは、読んで、聞いて、情報を取り入れ、論理的に思考を組み立て、相手が理解できるように自分なりに表現するための方法論を指導する教科です。
「言語技術」は欧米を中心に普及している“Language Arts(ランゲージアーツ)”を取り入れ、日本人向けに開発されたもので、大手企業研修や日本サッカー協会などにも採用された実績があるものです。
コックピットで「言語技術」が必要な理由
航空用語に「エラーチェーン」というものがあります。これは、事故の原因は一つの事だけではなく、小さなミスや偶然がチェーンのようにつながっているというものです。つまり事故とは、事象がチェーンのように連鎖した結果として起こるもので、たった一つのミスや偶然で事故が起こることはほとんどないということです。
過去の航空機重大事故には、コミュニケーションの行き違いが原因のひとつであるものが多く、逆にコミュニケーションが上手くいっていれば事故にならなかった可能性もあったわけです。
日本人は特にですが、その場の空気を読んだり相手の気持ちを察したりするのを良しとする傾向があります。パイロットといえども、年齢差や、機長と副操縦士というポジション差から、相手の話に合わせたり、意見をはっきり言えなかったり、という場面があるそうです。
「言語技術」を活用すれば、「短時間で分かりやすく話す」ことで、時々刻々と状況が変化するコックピット内での「以心伝心」を排除し、「エラーチェーン」を絶ちきることができるわけです。
「言語技術」の実践3ステップ
対話
「対話」のスキルを向上するプログラムとして、「問答ゲーム」があります。具体的なやり方としては、2人1組になり、質問者と回答者に分かれ、テーマを設定して、問答を行うというものです。
「問答ゲーム」には以下の4つのルールがあります。
- 回答者は、結論から言う
- ナンバリングを用いる(回答者の答えがいくつかある場合「1つめは○○、2つめは△△」と番号を付けて整理して話す)
- あいまいな個所をなくし、具体的な話をする
- 知識自体は問わない
- 質問者は反論しない
問答ゲームの例としては、
質問者「冬は好きですか?」
回答者「好きです。美味しいものがたくさんあるから。」
つい理由から話してしまいますが、回答者は必ず結論から述べることを徹底します。そして質問者は、回答の中からあいまいな点を見つけ出して、さらに具体的な質問をし、会話を続けることがスキルアップにつながります。この会話の続きとして、
質問者「美味しいものとは何ですか?」
と質問をして、議論を深めていきます。
回答者「焼きカニ、冬しか食べられないから」
質問者「ほかにも、何かありますか?」
こうして、とことん具体的な話をしていきます。
この問答ゲームでは、質問者は質問のスキルを磨くことができるし、回答者は話すスキルを鍛えていくことができます。これら「対話」のスキルが「説明」のスキルへとつながっていきます。
説明
説明のスキルのポイントは次の順序を守ることです。
- 概要を説明する
- 詳細を説明する
例えば、「フランス国旗について、まったく知らない相手に、言葉で説明する」とします。普通なら「フランス国旗といえば、青と白と赤で……」となりますが、説明のポイントは「概要から詳細」です。つまりこの場合、「横長の長方形で、それが縦に三等分されていて…」と、全体の形状から説明して、次に色の説明に入っていくのが正解です。
パイロットは限られた時間の中で、言いたいことを厳選する必要があります。緊急事態になればなるほど、時間がないはずです。普段から「概要から詳細」の順序を守り、説明をするトレーニングをしていれば「短時間で分かりやすく話す」という意識が身につきます。
この意識は、ほかの仕事でも有効です。会議等では、「何分以内で発表」という制限が定められていることがほとんどです。そんなとき、「概要から詳細」を意識していれば、状況に合わせて分かりやすい説明ができます。
対話のトレーニングで「結論から話す」というルールがありましたが、「概要から説明」とは「結論から話す」ということに他ならないのです。
分析
例えば、空港でのワンシーンを描いた1枚の絵があるとします。こういう絵を見ると、僕たちは人物を中心に見てしまいがちです。しかし、まず大きなところから見ていきます。国内なら何地方にあるどの空港か、季節はいつ、時間帯は、天候は等、環境設定を分析していきます。
分析した結果を発表するときのルールとして、
- 「事実」と「意見」は分ける
- 「事実」の後に「意見」を加える
「それは事実か? 意見か?」ということを意識して、分析結果を「短く」まとめようとすると、意見のほうが先に出てきてしまいます。このトレーニングを繰り返すことによって、事実と意見を明確に分けて説明をするスキルが身に付きます。
まとめ
「言語技術」のスキルを意識することで、会議等では、「今日の私からの話は、これとこれの2点あります」など結論から話すことと、ナンバリングが徹底でき、会議時間が短縮され、内容が伝わりやすくなる。
ただし、このスキルは仕事上で効率的なコミュニケーションを向上させるものなので、「効率を求めない」ケースでは使い分けることが必要です。同僚との雑談や、妻との何気ない話に「結論から言って」などと言うことは……事故のもとになりますから。
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